名古屋市内を中心にビルやマンションなどを所有・運営するむさし家ホールディングス(名古屋市)は家賃0円で貸し出すサービスを2月、開始した。
対象物件は名鉄「森下」駅から徒歩3分に立つ事業用ビル。築28年、RC造4階建て。全10戸のうち、2階と3階の一部分を無償にしたという。理由について、横山篤司社長は「漏水が発生していて家賃をもらって貸せる状態ではなかった。ただ、多額な修繕費をかけるなら、一層のこと賃料をもらわず募集することに踏み切った」と話す。
所属する経営者仲間のSNSで募集を呼び掛けたところ、即座に返答がありヘアケアのメーカーとエステなどを手掛ける企業の2社が、商品や美容機器を置く倉庫として借りることになった。漏水箇所には養生をしてバケツで受けるなど対策を講じたり、荷物の設置場所について注意を促したりしている。
賃料の代わりにモノ・サービスを還元
賃貸側のむさし家ホールディングスに、無料で貸し出すメリットはどこにあるのだろうか。同社と賃借人は通常の賃貸借契約ではなく、使用貸借契約を締結し、家賃の代わりにシャンプーやトリートメントなどのヘアケア商品や、エステの利用券をもらい、社員に還元する形を取った。
昨年から「健康経営」に取り組み、社員や社員の家族の健康面も意識するようになった同社。
「スタッフに福利厚生として提供することができるとともに、単に入居者とオーナー・不動産会社という立ち位置ではなく、サービスの提供者・利用者という関係にもなり、そこから新たなコミュニケーションも生まれている」(横山社長)
むさしコーポレーショングループは1933年、名古屋駅前で「旅館むさし家」を創業し不動産賃貸業や医薬品販売などを手掛ける老舗企業。横山篤司氏は13年、三代目として就任し、ビルの再生や地域活性化事業などさまざまなプロジェクトを行っている。「人口減で空室が発生する中、家賃という地代はあと25年ほどで崩壊すると感じる。時代を先取りする考え方かもしれないが、今回の0円賃貸のようなコミュニティや地域創生につながる取り組みが必要になってくるだろう。
今後もさまざまなアイデアを考案し実行したい」と意気込んでいた。
ライター:加藤有里子