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アパートの1室を児童養護施設に提供

戻る場所がない子どもたちの受け皿に


 不動産を通じて若者の支援に取り組むオーナーがいる。
大阪府茨木市にアパートや貸し駐車場を所有する地主系の金田洋子オーナー(兵庫県神戸市)だ。
 2021年10月、アパートの1室を社会福祉法人慶徳会(大阪府茨木市)に貸し出し、
児童養護施設「子供の家」の一部として提供している。

 困っている子どもたちに何かサポートできることはないか模索する中で昨年12月、児童養護施設を運営する慶徳会に足を運んだ。すると、慶徳会は居場所事業として施設外の建物を探していたという。舟木康二施設長は「卒園生が帰省した際に施設を利用することは難しく、実家がない、家族と会えないなどで戻れる場所がない子どもたちの受け皿になる場所がないか探しているところだった。賃貸住宅の1室をこのような形で利用させてもらうのは全国的に珍しく、大阪府として初の取り組みではないか」と話す。

 建物は築34年軽量鉄骨造2階建て全8戸。2階に位置する1DK、1室を同会に2万5000円で貸し出した。改修の依頼は特になかったが、金田オーナーの自費で施工した。クロスや床工事のほか、壁を設けたりキッチンや浴室など水回りの入れ替えを行ったりして掛かった費用は250万円。
金田オーナーは「回収までには時間はかかるが、居心地良く使ってもらえたらうれしい」と話す。

畳の表替えや棚の設置など全面的に改修した
シャワーとトイレが独立空間になるユニットを導入した
食事が作れるようキッチンの入れ替えも行った


 実は金田オーナーにとって今回が初の支援というわけではない。自助努力している人へサポートしようとホームレスの自立支援「ビッグイシュー日本」に部屋を提供しているのだ。この事業は継続しており現在、4戸が活用されている。

ヤングケアラーの経験から困窮者へサポートを


 一般的に安定した賃貸収入を求めるオーナーが多い中、なぜいわゆる生活弱者に目を向けているのか。背景に金田オーナー自身の経験が関係していた。

 小学2年生のときに、母親が統合失調症を発症。そのため介護や世話を子どもが行う、いわゆるヤングケアラーとなったという。「25歳まで面倒を見てきた中で、自分のために生きたいと思うようになった。私と同じ境遇や親の虐待、生活困窮などさまざまなケースがあるが、困った子どもに手を差し伸べることで自分自身も救うことができるのではないかと感じている」と語る。今後は空き家となっている実家と駐車場を活用し、小規模児童養護施設を建設するとともに、児童養護施設に措置されない子どもの支援施設を併設し、よりサポートの幅を広げていきたいと意気込んでいた。

 住宅要配慮者などいわゆる生活弱者は新型コロナウイルスの影響で増加すると見込まれる。金田オーナーのようなサポートを真似することはなかなか難しいが、官民が一体となり、受け皿が広がる仕組みやサービスが広がることを願ういっぽうだ。


ライター:加藤有里子