前回は能登半島地震について、金沢市、七尾市中心部、七尾市能登島の様子をお伝えした。今回は、不動産会社は被災者に対してどのような対応を行ったのか。被害があったエリアや建物にはどのような要因があったのか。近い将来起こるであろう大地震にどのような対策をするべきかについて解説する。
みなし仮設提供で、これまでの繁忙期で一番多忙
1月4日、石川県において「令和6年能登半島地震における賃貸型応急住宅実施要綱」が施行された。賃貸住宅を応急仮設住宅として提供する、「みなし仮設住宅」と呼ばれるものだ。繫忙期も相まって、不動産団体や管理、仲介会社は年始から物件対応に追われたという。野々市市に本社を構えるアパートマンの田上育美社長は「みなし仮設供与について、マニュアル化されていたため、東日本大震災、熊本地震に比べて対応が早くできていると聞いている。実際、1月1週目ごろには通達が届き、対応に尽力を尽くしている」と話す。創業60年を迎えたクラスコ(金沢市)では、2月14日時点で被災者からの申し込みが420件入ったという。小村典弘社長は「これまでの繫忙期の中で一番忙しいかもしれない。当社では独自に管理物件の仲介手数料および、最大6カ月分の家賃を50%無償にする取り組みを行っているが、当面サポートしていく予定」と話す。
木造の揺れを増幅させる「共振」と液状化で被害大
被災状況について2点に分けて見ていく。
1点目は地理的要因によるものだ。地震対策本部によると、能登地方の地殻内では 2020 年12月から地震活動が活発化していたという。21 年7月頃さらに活発になり、今回、最大の震度7を観測した。1月1日の大地震では、木造住宅の揺れを増幅させる「共振」と呼ばれる現象が発生し、甚大な被害をもたらした。この現象はキラーパルス(killer pulse)とも呼ばれ、阪神・淡路大震災や熊本地震などもこの地震波だといわれている。
海岸や湖沼の埋め立て地、河川敷、川沿いなど砂質の地盤では、強い揺れが加わることで今までかみ合っていた砂粒が動く「液状化現象」が起きた。これにより、水が噴き出したり、その上に立っていた建物が沈んだり、傾いたりするほか、マンホールが浮かんでくるといった現象が発生した。国は3月22日、液状化対策として、被害を受けた自治体に対して、国の補助率を4分の1から2分の1に引き上げると表明。併せて、傾斜した住宅の修復に最大120万円補助する方針を打ち出した。
大破は「筋交いが無い」「シロアリ」による食害物件
2つ目は、建物の構造耐力不足だ。 倒壊した建物の多くが、築古の木造だった。これらの物件には、筋交いが無かったり、シロアリによる食害で柱がスカスカになっていたりする状況が見て取れた。 七尾市の建設会社アントール、川上孝一社長は「液状化被害に遭った建物を除いて、新耐震の建物ではほとんど無被害に等しい。倒壊の原因は耐震不足に尽きると思う」と話す。国土技術政策総合研究所(茨城県つくば市)、国立研究開発法人 建築研究所(同)は「木造建築物の被害調査報告」で、建築年代が古い木造建築物が倒壊または大破していたと発表している。
被災者が「一番困った」ことは「水」
では近い将来起こり得る南海トラフなどの地震に対してどのような備えをしていたら良いのか。
取材を進める中で、「用意しておいたほうが良かった」「一番困った」と被災者が異口同音に答えたのは「水」だ。飲料、トイレ、洗濯、食器の片付けなど生活のありとあらゆるシーンで必要不可欠となる。「下水のマンホールを開けてそこで用を足す時期もあった」(前述の川上社長)。七尾市・能登島で不動産売買を手掛けるのとじまの不動産屋(七尾市)河尻成美社長は「能登島はしばらく断水のため、井戸水を活用して生活している。井戸水は災害時に役立つと身にしみて感じる」と話す。水のほか、保存食や発電機、寝袋、仮設トイレなどを準備しておくことが災害時の備えとなる。
ハザードマップなどで事前確認を
防災科学技術研究所(同)が運営するWEBサイト「地震ハザード防災ステーションJ-SHIS」は、地図、住所から地震のリスク予測などを調べることができる。また、ハザードマップで、自宅や職場周辺などの危険性や避難場所を確認しておくことがもしものときの一助となる。
ついおろそかになる対策だが、「地震が起きてから」「災害が発生してから」では事すでに遅し。迫りくる地震に向けて対策していただきたい。
参考WEBサイト:
「地震ハザード防災ステーションJ-SHIS」https://www.j-shis.bosai.go.jp/map/
「ハザードマップポータルサイト」https://disaportal.gsi.go.jp/
ライター:加藤有里子
okiruy:https://okiruy.com/