「相続登記の申請の義務化」は、土地、建物を取得した相続人に対して、取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付けるもので、2024年4月1日に施行される。施行日前に相続した不動産であっても、未登記であれば、義務化の対象となる。さらに、遺言の有効性争いや、重病であるなどの「正当な理由」がなく申請を怠った場合、10万円以下の過料が科せられることがある。
相続登記の申請はこれまで、義務ではなかったため、死亡した先代名義のまま放置され、国が所有者を把握できなくなった不動産が増加。所有者の検索に、時間やコストがかかったり、公共事業や民間取引が疎外されたりしてるため、解消したい考えだ。
相続人申告登記、単独で申出することが可能
申請の義務化と同時に、「相続人申告登記」が新設される。故人の名義のまま放置している相続人に対して、その相続人であることを申し出てもらおうという制度。相続人が複数存在する場合でも、特定の相続人が単独で申し出することが可能。例えば、男三兄弟の場合、長男単独で申し出ができる。
加えて、他の相続人の分も含めた代理申し出も可となる。申し出されると、申し出をした相続人の氏名や住所などが登記されるが、持分までは登記されない。申告登記をしても、相続登記は完了していないため、最終的には正式な相続登記の申請が必要だ。司法書士 村田事務所(尼崎市)村田弘志代表は「今回の義務化は相続人に対して、死亡者の名義のまま放置せず所有者であることを申告させるもの。相続登記の第一段階ととらえるのが良いだろう」と話す。
改正内容、過半数が未把握
改正の認知度について、家主の有志団体「おおや倶楽部(大阪市生野区)」にアンケート協力を依頼して回答を得た。同会のメンバーに対してE-mailにて8月30日〜9月7日の期間、調査を実施。50人中23人から回答を得た。
Q1.「23年4月1日『相続登記の申請義務化』が施行されるが知っているか。」について、「はい」が12人、「いいえ」が11人だった。
Q2.「『相続登記の申請義務化」の概要について把握しているか。」に対しては、「はい」が9人、「いいえ」が14人となった。
Q3:「相続人が複数存在する場合でも特定の相続人が単独で申出可。他の相続人の分も含めた代理申出も可となることを知っているか。」については、「はい」が5人、「いいえ」が14人と過半数が把握していないことが分かった。
同会の糸川康雄代表は「勉強会を定期的に開催しており、相続登記の義務化についても過去に伝えたことがある。しかし認知されていないことに気が付いたと同時に詳細まで自分自身も把握できていなかった」と話す。
不動産取引が進む可能性を期待
これまで、所有者が分からないため、土地や建物を購入したい人は連絡する術がなかったが、登記が義務化されることにより、所有者情報が判明するため、不動産売買が進む可能性がある。しかし、糸川代表は「被相続人の名義のままにしているケースは、権利関係がややこしい場合や、資産価値の低い不動産を所有している場合に多いと思う。スムーズに行くとは思えない」と否定的だ。
段階的に打ち出す方策 積極的告知が必要では
所有者不明土地は、九州本島の大きさに匹敵するともいわれている。26年4月には、住所変更をしていない所有者に対して、「住所変更登記の義務化」されるなど、段階的にさまざまな方策を施している法務省。前述の村田司法書士は、「所有者不明不動産の問題については、所有者が不明になってしまうと責任の所在が曖昧になってしまう点と、その原因をどうすれば解消できるかという点が論点。解消するために、国はさまざまな制度や法律を作り、不明にならないように促そうとしているが、制度の名前だけが一人歩きしている」と話す。
国は積極的な告知と分かりやすい説明が必要ではないだろうか。
ライター:加藤有里子
okiruy:https://okiruy.com/