当時の雰囲気が味わえる
「GOOD OLD HOTEL」
部屋名「和室スナックおあしす」の様子
今回のコラムは、前回に引き続き、「第71回ビル経営サミットin関西」内で行われたパネルディスカッションについてお伝えする。
「地域に根差したビル経営-テナントのニーズにマッチした成功事例」と題したディスカッションにおいて、キンキエステート(同)営業部長兼NextEstate(同)代表 野村昇平さんならびに、情報都市(大阪府泉佐野市)広報企画室 河島光佑さんの登壇内容について紹介する。
投資物件を保有・管理するキンキエステートは、青森県で仕入れた物件の活用について講演した。
同社は弘前市の繁華街「鍛治屋町」にある築50年のスナックビルを競売で落札した。同ビル「グランドパレス1号館」は昭和時代、スナック・ディスコ・飲食店が入居し、夜の社交場として栄えていた。しかし、時代が移り変わるとともに廃れていった。
ビルの2階部分はスナック跡となっており、看板や内外装が当時の状態のまま残っていた。昭和の雰囲気を残したホテルを造ろうとオープンさせるに至ったという。
泊まれるスナック街「GOOD OLD HOTEL」として2020年7月開設した。野村さんは「構想当時は新型コロナウイルス以前で、インバウンドで民泊が盛んだったので外国人客を想定していた」と話す。部屋は全11室。看板は既存のものを使用しているため、「スナックアロー」「ニューウうさぎ」「愛人」「ぴちぴち」など目を引くルーム名ばかりだ。
利用料金は9800円から(1室一泊)。1階は現在もスナックが入居している。「利用客は当時、店を利用したことがある地元の方が多い。地域に根差しながら多種多様な人に利用してもらい、活性化につなげたい」(野村さん)
入居率58%の団地を97%まで改善
背の高い右が14階建て全289戸。左が5階建て全40戸の左右あわせて329戸からなる「佐野湊団地」
広々としたワンルームタイプの部屋の様子。
泉佐野を中心に宅地開発や不動産売買を手掛ける情報都市は、UR都市機構から日本で初めて(※)団地を取得し、入居率を見事改善させた事例を発表した。
物件である「佐野湊団地」2棟、1978年・79年築の全329戸。南海本線「泉佐野駅」から徒歩15分。「井原里駅」から徒歩12分。購入当時は入居率が58%、147室が空室と厳しい状況だった。
主に行った項目は、各戸のリノベーション、建物の大規模修繕、ブランディングの3つ。
居戸のリノベーションでは、5タイプの間取りに変更。団地のイメージを払拭した仕上がりにした。
タイプSは洋室・LDK間の間仕切りをなくし、広々とした1LDKに。タイプAではフローリングの部屋を2部屋設けた。壁紙やフローリングは各戸、異なるデザインを採用しバリエーションを持たせた。タイプBは、畳敷きの和室と、LDKの洋室に。こちらも部屋ごとに床や壁紙の色が選べるようにした。タイプCは和室2部屋とDKの2DK。これらはいずれも46.20㎡。タイプDは和室3部屋とDKの3DK(51.18㎡)。賃料は4万2000円~6万円。礼金は1カ月分としている。
外回りの工事では、ベランダのハト被害の対策や、2億2000万円を掛けて大規模修繕を実施するなどした。
入居付けや地域への発信、ブランディングを図るため、「佐野湊団地」のウェブサイトやインスタグラムなどITを活用。バーチャルマップを設けて詳しく解説したり、部屋や団地の特長など良さを伝えたりしている。それらの結果、入居率は97%と大幅に改善。うち自社での客付けは52%を占める。河島さんは「SNSやクラウドファンディングなどを活用しながら、今後も地域に根差した事業を展開していく」と話した。
同社では、今後も地域に根付いた事業を展開していく。
8月23日のコラムと今回の2回に分け、シェアオフィス、新築ビル、スナックビルの活用、空室だらけの団地再生と計4事例を取り上げた。種類、手法はすべて異なるが、地域に根差しているということと、時代のニーズに対応した価値を提供していることが共通点と言えるだろう。これらをヒントに経営に活かせてもらえたらと幸いである。
キンキエステート*泊まれるスナック街「GOOD OLD HOTEL」https://goodoldhotel.com/
情報都市*「佐野湊団地」 https://www.j-toshi.com/sanominato/
ライター:加藤有里子