パネルディスカッションの様子
「週間ビル経営」を発行するビル経営研究所(東京都中央区)はビルオーナー向けのイベント「第71回ビル経営サミットin関西」を7月7日、グランフロント大阪で開催した。
「アフターコロナのその先へ 柔軟な発想のビル経営戦略」と題して行われたサミットで、ビル会社4社によるパネルディスカッションが実施された。その内容についてお伝えしていく。
ディスカッションタイトル「地域に根差したビル経営-テナントのニーズにマッチした成功事例」として、大阪、京都など地元関西の会社が集結した。
「週間ビル経営」椎名京さん司会のもと、アッドスパイス(京都市)代表 岸本千佳さん
セントランド(大阪市)営業企画部 係長/開発企画部 マネージャー 松田英幹さん
キンキエステート(同)営業部長兼NextEstate(同)代表 野村昇平さん
情報都市(大阪府泉佐野市)広報企画室 河島光佑さんが登壇した。
今回は、アッドスパイス、セントランド2社の取り組みについて紹介する。
現代の「市中の山居」として提供
落ち着いた空間を演出したシェアオフィス『閑居(KANKYO)』
都会の喧騒を忘れて集中できる空間を設けた
アッドスパイスは、長年空室だったオフィスをシェアオフィスとして稼働させた例を紹介した。
物件の場所は京都市営地下鉄烏丸線「四条駅」徒歩5分、阪急 京都線「烏丸駅」徒歩5分と一等地に位置する。しかし、建物は間口が狭く、奥に深い造りになっており、1階が長年空室だった。所有者である敷島住宅から活用方法を考えてくれないかと同社に依頼がありプロジェクト化した。広さは100㎡あるため、ワンフロアを賃貸する借り手も中々いなかった。ただ単にコワーキングやシェアオフィスを造ったとしても、市内にはすでに多数存在しているため難しいと判断した。
そこで、京町家の雰囲気が残る建物を生かした、茶室のような空間があるシェアオフィスと自習室の中間施設をつくろうとシェアオフィスの創設が実現。『閑居(KANKYO)』として開設した。岸本千佳代表は「当時の町衆は、非日常の茶室をつくることで、 心身の環境を整えていた。『市中の山居』と言われるように、都会なのに集中できる空間を生み出した」と話す。
茶室の役割を担う個室は、全室鍵付きの吸音材を使用し、より集中できる環境にした。一方、共用部には、ラウンジや日光浴ができる外土間を設け、明暗を切り替えられるようにした。
部屋は全19室。個室は3.19~3.79㎡。賃料は2万7000円~2万9000円(税別)。4人収容可能な3部屋は7.56~13.21㎡。4万8000円~6万1000円(税別)。共益費5000/人。空室以前の賃料が23万円だったというから、満室稼働で1~2割賃料アップできた計算になる。
ビルに床暖房、屋上テラス設置し居心地の良さ追求
365日色変化できる外光を設置した
東西南北全方向、大阪市内の様子が見渡せるテラス
セントランドは大阪・西九条に複合ビルを竣工した事例を紹介した。
西九条は、大阪駅に電車で5分、ミナミと呼ばれる難波駅にも電車で15分ほどと交通の便が良いエリアに位置している。微増であるものの、人口も増えている。同社は大阪環状線、阪神なんば線「西九条駅」前に用地を取得。2018年4月に地下1階、地上7階建てのビルを竣工した。「町、地域に貢献できるビルを提供したいという思いで運営する同社は、周辺に医療施設がほとんどないことに着目し、メディカルセンターとして機能できるよう誘致。1~4階は店舗、2~4階にはクリニック、5~7階をオフィスフロアとした。
屋上には大阪の景色を見渡せるテラスを設けた。松田英幹さんは「東西南北全域を眺望できるビルは市内にここしかないと思う」と自負する。外光は365日を色を変化させたり、ビルにもかかわらず、床暖房を設置したりと他に類を見ないビルに仕上げている。 1924年と老舗企業だが、ここ数年、異業種から転職した社員が増加。枠にとらわれないさまざまなアイデアやサービスの提供ができるようになったという。その結果、より入居者の快適さを追求しサービスの提供に重点を置くようになった。例えば、商談や打ち合わせができるよう、ビル内に会議室を設け、無料で開放している。また、清掃を徹底したり、草花を共用部に置いてリラックスできるよう環境を整えたりしている。「かっこいいビルをより追求し、期待以上のサービスに果敢に取り組んでいきたい」(松田さん)。
「シェアオフィス『閑居』」https://addspice.jp/case/kankyo/
セントランド「セントメディックビル」https://centland.jp/property/centmedic/
次回はキンキエステート(NextEstate)、情報都市の事例を取り上げる。
ライター:加藤有里子